まよいねこ

好きなものは多い方がいい。

残り香

彼の街から帰った夜。

シャワーを浴びようと髪に触れたら

いつもと違う、ふわりとしたあまい香り。

 

今朝、彼に借りたシャンプーだ。

彼に抱きしめられたときと同じ香り。

 

そう思った瞬間

さっきまでの幸せな時間を思い出して

胸がきゅっとなった。

 

毎日同じシャンプーで髪を洗えて

毎日同じ香りをまとえる

そんな未来がいつかくることを祈って

今日もまたひとり眠りにつくよ。

 

あなたの残り香を抱きしめながら。

変わらないもの

仕事を大慌てで片付けて駅前のスターバックスに駆け込むと

パソコンを開いて取引先に電話をしている彼の後姿が目に入った。

 

2ヶ月ぶりの彼は、グレイの秋ジャケットを羽織り、髪も少し短くなっている。

先回会ったときは、Tシャツから覗く日焼けした真っ赤な腕と海水浴で痛んだ髪に触れていたのに。

そんな姿に離れた場所でお互いが通過した季節を感じ、少しだけ切なくなった。

 

でも、電話を耳元に当てたまま

わたしを見つけてふわっと笑うその顔は

わたしの好きな顔そのもので。

子どものような屈託のない笑顔で

自分の隣の席をとんとんと示す仕草が愛しくて。

 

季節なんて飛び越えて、あなたの隣へ一目散。

 

変わらないものはここにある。

シングルベッド

彼が帰った日の夜はいつものベッドが広く感じる。

狭さを言い訳にくっついて眠った昨日、まるで遠い昔のよう。

彼のセミダブルベッドで寝るのも好きだけど

わたしのシングルベッドで寄り添って眠るのも好きなの。

 

このベッドをまた狭く思える日、1日でもはやくきますように。

今夜はあなたの夢が見たい。

ごめんね禁止令

忙しいのに長電話しちゃってごめんね、と口にしたら

わるいことしてないんだから謝っちゃだめ、と叱られた。

 

日本人は「ごめんなさい」のひとことで

「ありがとう」も

「よろしくね」も

「好きだよ」も

伝えるくせがあるらしい。

 

でも、そのひとつひとつにはそれぞれ

「ありがとう」

「よろしくね」

「好きだよ」

ということばがあるのだから

それを使わなきゃもったいないね。

 

これからは、ごめんね、じゃなくて

だいすき、をことばにしよう。

感動を与える

この土日は、年に数回あるエンドユーザーの反応を見れる日だった。

笑顔あふれるエンドユーザーを見て、

あぁ、がんばってよかったな、と思っていたところ。

 

「感動しちゃった」とぽろりとこぼされたことば

聞き逃さなかった。

 

その方はそのままお友達のところに向かい、

ねぇ、これすごいからやってみて?わたし感動しちゃったの、

と興奮気味に話されていた。

 

わたしは、人に感動を与えているのか。

なんて夢のある仕事をさせてもらっているのだろう。

 

最先端の技術、とまでは言えないけれど、

日々進化していく技術をお客様のために、

そしてその先のエンドユーザーに届くようにと働いています。

でも、まさか、その先に、感動があるなんて。

 

明日からもがんばろう、と気持ちを新たにした夏のはじまり。

 

これからも、わたしはこの手で感動を作っていくよ。

かえりみち

今日の帰りは、客先近くの乗り換え駅で降りて

有名なパン屋さんへ向かってお散歩。

大通りから一本奥の小道を入って数分歩くと

香ばしい香りがわたしの行き先を教えてくれる。

 

ショーウィンドウに並ぶどのパンも美味しそうで、まるで、

わたしを買って!わたしを食べて!

と言っているようで。

ああ、わたしのお財布の中身と胃袋が無限にあればいいのに!

なんて思いながら、ひとつひとつ選んでゆく。

 

紙にくるまれたバゲットをはみ出させたビニール袋を手にさげながら歩く、かえりみち。

しあわせな香りが鼻をくすぐる。

 

このバゲットは薄くスライスしてジャムを塗ろうかな

このクロワッサンはパリッとトーストしようかな

このクリームパンは生物だから今日中に食べたいな

 

なんて、考えながら歩く。

しあわせな帰り道。

 

今日も一日、おつかれさま。

満月の夜

またね、と別れた次の日がいちばんさみしい。

あと数日も経てばこのさみしさが紛れていくのを知っているけど、何度経験しても慣れることがない。

 

そんなことを考えてしまう残業からの帰り道。

楽しかった週末のことを思い出したら視界がにじんできたから

あわてて空を見上げて思いがこぼれないようにしたら

わたしの瞳に映ったのはまんまるのおつきさま。

 

美しくて、明るくて、気高くて

なんだかますます視界がにじんで見えた。

 

だいすきなひとがいるあの街も、同じ月が見えますか。

次の満月は、あなたと一緒に眺めたい。